部屋は小さく狭いものだったが、そこには壁といわず床といわず、魔法の輝きを放つ武具で埋め尽くされていた。
おそらく保管庫かなにかとして使われていたのだろう。
「はー、すげえな。もしかしてコレ全部、ルーエン作かぁ?」
長剣、短剣、槍、戦槌、戦斧、長弓、弩、甲冑、具足、楯……
ありとあらゆる武具の類が、揃っていた。
「おお、この剣なんか俺にちょうどいいサイズだぜ」
ライクは、壁にかかっていた剣のひとつを手にとって、なめ回すように眺める。
パースリーは、扉の近くにあった棚の中から、薄い冊子を見つけだしていた。長い年月がたっているにもかかわらず、色あせるどころか、たった今インクを走らせたようだった。
冊子の中身は目録だ。部屋に治められている武具の一覧が書かれている。
「ふんふん、狩人神の描かれた楯……は、あれか。矢傷に倒れることなし、ね。こっちの矛は……竜を呼び寄せる? すごいわねぇ」
棚には目録以外にも、いくつかの書類がある。武具の使い方を記したものかもしれない。自分たちが使うもの以外と全部ひっくるめて売りさばけば、かなりの金額が期待できるだろう。
パースリーの顔も自然とほころんでくる。
「にやにやしてねぇでよ、この剣にはなんかねぇのか? 束に獅子の細工が施してある長剣だ」
「ちょっと待って、獅子獅子獅子……と、あったこれだね。えーっと、眠りの魔法の力を持つ、だってさ」
「眠りの魔法ね、そりゃ俺好みだな。余計な戦闘を避けられる」
魔剣は他にもいくつかあった。
火炎柱の剣や、麻痺毒の剣、魔法封じの剣などだ。なかには、魔獣召還の力が込められた剣もあった。
どれも強力な代物だ。
パースリーはそれを伝えるが、ライクはやはり眠りの魔法剣が気に入ったらしい。
「無用な戦いは避けるのが俺の信条だ。それによ、こいつも他の剣にひけはとらねぇぜ? 戦場で眠っちまうってのは、それは死と同義だからな」
剣の使い勝手を確かめるため、ライクは部屋の外へ出た。通路の方がいくぶん広いからだ。
二、三振り回してみようと、ライクは鞘から剣を引き抜く。
ほのかに白い輝く刃が鞘から解き放たれた瞬間、ライクの体が崩れ落ちた。
声を出す間もなく、全身の力を失った。
それはあまりにも突然で、思いがけない出来事だった。
「ライクッ!」
悲鳴のように、相棒の名を呼びながら、パースリーが駆け寄る。
剣に何か仕掛けられていたのか? それとも呪いがかけられていたのか? 心拍は? 呼吸は?
頭の中で不吉な映像が流れる。
半ばパニックを起こしながら、ライクの体を確かめていく。
外傷は、ない。脈も大丈夫。呼吸は浅いが、止まってはいないようだ。
パースリーの耳に、安らかな寝息が届いていた。
つまりライクは、眠っていたのだ。
彼の手には“眠りの魔法の力を持つ”剣。
〈 お・し・ま・い 〉
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