「ゴブリンが出たぞー! ゴブリンが出たぞー!」
その日は朝から大騒ぎであった。明け方、見張り小屋から知らせの鐘が鳴り、町の警備兵もあわただしく動き回っている。
明け方近くにゴブリンの夜盗が現れたのだ。農園の作物の大半が荒らされ、家畜をすべて盗まれた。町の外側には農園がいくつかあって、そのうちゴブリンの襲撃を受けたのは、一番森にちかい場所だった。近くに住み着いたゴブリンの群れに間違いだろうと思われる。
被害はそれだけではなく、農園の主も怪我を負わされたのだ。
農園だけでなく、家にまで迫ったゴブリンを追い払おうとした主が殴り倒されたのだった。
いつもならば、住民同士でお金を出し合って家畜を買いなおしたりして解決していた。
しかし、今回はそれだけでは済まない被害である。
農園の家族や使用人たちは、安全な町まで避難してきていた。
彼らの話では、ゴブリンは集団でやってきてあっという間に去っていったという。武装していたかどうかはわからないが、農園の番小屋や家の扉には何かで切りつけたような跡が、いくつもつけられていたと言っていた。
町方連中も集まっては、対策を考えた。退治するまでいかなくとも、町から遠ざける、追い払うくらいはしたほうが良さそうだ、という意見が大半となった。
しかし、問題はそれを誰がするかということである。
ゴブリンが住み着いたとされる森に近づこうとする者は少なかった。それほど深い森ではないし、今回のゴブリン以外に危険な獣もいるわけでもない。昔からお化けが出るだとか、夜な夜な呻き声が聞こえるなどといわれているのだ。それが本当かどうかはわからないのだが、木こりたちでさえ、あまり奥まで入らないようにしている。
警備兵たちも、結局はこの町の住人だ。あまり気乗りはしないだろう。
都へ願い出て兵を派遣してもらおう、という者もいた。
しかし、それでは時間がかかってしまう。それに派遣兵はよっぽどのことがない限りやってこないだろう。大勢の犠牲者が出るまで待つわけにもいかなかった。
カナエが寝泊まりしている、飛行船の残骸を置いてある町はずれへ、町長からの使者がやって来たのはその日の昼過ぎだった。
ゴブリンの討伐をカナエは喜んで引き受けた。
報酬として、それが終わればいつでも町を出てもよいことになるばかりか、いくらか謝礼も出るという条件だったからだ。
実のところ、怪我人の治療費だとか、建物の修繕費などの名目で、有り金のほとんどを巻き上げられて困っていたのである。
カナエはさっそくヒビワレツメとともに、仕事の準備に取りかかった。
愛用の剣と鎧の手入れは怠ってはいない。必要になるであろう装備をあらためる一方で、足りないものを手配する。
しかしどれだけ道具を揃えてみたところで、相手はゴブリンの集団だ。多勢に無勢。一人と一体では心許ない。
ゴブリンの殲滅ではなく、少なくとも追い払えればいいらしいので、やりようはいくらでもあるのだが、少しでも危険の度合いを減らす必要があった。
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