あたりはすでに薄暗くなっている。
カナエは聞いてきたとおりの道を歩く。
やがて一軒の家の前で足を止め、その扉を叩いた。
「ごめんくださーい。ちょっとお開けくださいな」
しばらく待っていると、中から声が聞こえてきた。
「誰だ?」
ガタゴトと物音がして、ややあってから扉が開く。
出てきたのは、半ば杖にもたれるようにして立った男であった。
セキの父、セハだった。
「セキ君、居ます?」
じろりとカナエを睨む目が、頭から足下までをまるで値踏みをするかのような視線を送る。 このときはじめて、カナエは気づいた。セハの顔といわず体といわず、あちこちに大小の傷跡が見える。さぞ昔は勇敢な戦士だったのだろう。
「息子はまだ帰ってない。いま時分なら酒場で働いてるだろう」
ぶっきらぼうな口調で答えるセハの息は、酒の匂いが混じっていた。息子が一所懸命に働いている同じ時間に、酒を飲んでいたようだ。
この男が過去どれだけの人物だったかは知らないが、落ちぶれるものだな、とカナエは思った。
「そうですか。それじゃ、そっちへ行ってみます。お休みのところ、失礼しました」
カナエはいささか不愉快な気分で、きびすを返して歩き出す。
すると間もなくセハが呼び止めた。カナエは振り返る。
「あんた、何をするのか知らないが、あまりウチの息子に余計なことを吹き込むなよ」
「……余計なこと、とは?」
「余計なことだよ」
それだけを言うと、セハは家の中へ引っ込み、扉を閉めた。
しばらくの間、それを睨むように見つめていたカナエは、やがて、酒場に向かって歩き出した。
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