誘い

「……というわけでね。ゴブリン退治を引きうけたわけなんだけど、わたしとヒビワレツメだけじゃ少し不安なのよ。どうしても魔法の援護が欲しいんだけど、この町で魔法が使えるのは、あなたとあなたの先生だったおじいさんだけでしょ? 剣も少しは扱えなくちゃ話にならないって言ったら、それはもうセキ君しかいないって聞いたの。一緒に来てくれない?」

カナエが訪ねてきたので、セキは酒場の主人に休憩をもらって彼女の話を聞いていた。出会った日から戸惑ってばかりだ。

「かなり危ない仕事だけど、わたしとヒビワレツメが絶対守るから」

「でも、魔法ならカナエさんも使えるのでは? 落下緩和の魔法を使っていたでしょ」

セキは出会った日のことを思い出した。空から降ってきたカナエは怪我ひとつすることなく、緩やかに着地していた。

それを言うと、カナエは手をひらひらとさせながら首を振った。

「あはは。わたしはそんな立派な術は使えないわ。あれはね、あの飛行船から飛び降りた者に自動で魔法がかかるように仕組まれてたのよ。だから魔法使いはあなたしかいないの」

「でもオレなんかで役に立てるのかな」

「一通りの術はマスターしてるって聞いたわよ」

セキの心を半分が不安が、もう半分を自分の力を試してみたいという欲求が満たしていた。ゴブリンは恐ろしい。数が多いとなればなおさらだ。しかし、なんとなくこの女冒険者ならば守ってくれるような気持ちになってくる。

これは、何かの巡り合わせなのかも知れない、とセキは思った。

あの丘で見るいつもの風景が脳裏をよぎる。冒険への憧れが、強く胸の奥を揺さぶってくるように感じたのだ。

「わかった。どうなるかわからないけど、オレにも手伝わせてほしい」

それを聞いて、カナエはにっこりと微笑んだ。

「それじゃ、明日さっそく森へいくわよ。向こうで夜を明かすことにもなるかもしれない。準備するものを書くから、揃えてきて」

「待って。だいたいの準備ならできている、と思う。ちょっと待ってて」

言うなり、セキは酒場の隅に置いていた自分の荷物を持ってくる。

「こんな感じでいいのかな……?」

背負い袋の口を開け、中身をカナエに見せた。そして彼女の反応を待つ。

冒険の用意をしていたことが意外だったのだろう。ややあってからようやく手を伸ばし、中の道具をあらため、セキの顔を見た。

「おどろいた。完璧じゃない。水袋まで……。これなら今からだって行けるわ。あなた、いい冒険者になれるよ」

そういって再びカナエは笑った。

つられたように、少し照れたように、セキも笑った。

カナエと出会ってから、彼女にみせたはじめて見せた笑顔だった。

明日の朝、森の入り口で待ち合わせることを確認して、二人は別れた。




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