はじめての戦い

日が高く昇るころまで歩き通して、ようやくゴブリンの足跡や盗んだ家畜を引きずった跡を見つけることができた。

セキにはなんの変化も見られなかったが、カナエにはその場にいたゴブリンの人数までを把握しているようだった。

そこからときどき、カナエが先頭に立ちながら進んでいった。

何度目かの交代で、ヒビワレツメが先頭となって歩いていたときだった。

「左に小ゴブリン、四匹いまっせ。こっちに近づいとる。距離は、10歩弱」

ヒビワレツメが剣を構えたまま立ち止まった。

緊急時にに呪文を間違えないようにと、口の中で詠唱を繰り返していたセキは、あやうく鼻先をぶつけるところだった。

「セキ君、眠りの魔法を。あの茂みの向こうへ」

カナエも油断なく剣を抜き、ささやくようにセキに指示を出す。

セキは落ち着くために深呼吸を素早くひとつしながら、腰の小袋へ手を入れて指先に触媒の粉をつける。

その指で空中に呪印を描く。静かに呪文の詠唱を始める。

力を持った魔法語と印による魔法だ。呪文を唱えていくごとに体内の魔力が高まっていくのがわかる。

さらに別の小袋から新しい粉を取り出し、あたりに散らしていく。すると、散った粉がわずかに輝きながら、まるで意志をもったかのように茂みの方へと流れていった。

『我が身のマナをもて、あるべき姿を換えよ、眠りをもたらす空気となれ』

最後の呪文と呪印が完成すると、一瞬、茂みのあたりが暗いガス状のものに覆われた。セキの術によって、その場の空気が変質したのだ。放っておけば半日は目の覚めない眠りの魔法である。

すぐに何かが倒れるような音がした。

と、同時にカナエとヒビワレツメが茂みに向かって走り出す。

茂みからも何かが飛び出してきた。小ゴブリンである。

ゴブリン族の小さな種類であった。セキも書物で見たことがある。

小ゴブリンは自分に向かってくる人間とゴーレムに驚いたのか、すぐに引き返してどこかへ消えていった。

それで終わりだった。

「どうやら、ただの見回りか食料調達係かなにかだったようね」

「倒さなくてもよかったのかい?」

セキが尋ねると、カナエは肩を小さくすくめてみせた。

「追っ払えばいいだけだしね。それにあいつらは臆病だから脅かせばすぐにどこかに逃げちゃうのよ。……それにしても見事な魔法だったわ。四匹のうち三匹まで眠らせるなんて。こいつらも魔法をかけられたことに気がついたら逃げるでしょ」

「とにかく、進む方向はこっちで合ってるみたいでんな。さ、どんどん行きましょか」

ヒビワレツメが歩き出したので、セキもあわててそれを追いかける。追いかけながら、そっと胸をなで下ろしていた。

さらに一行は森を進んでいく。

少しでも早くねぐらを見つけようと、昼食も歩きながらとっていた。

足跡はさらに奥へと続き、一行もそれを追いかけていく。何度かの小休止をいれているものの歩き通しである。

しかし、森に差す日も薄れ、あたりがしだいに暗くなってくると、さすがに足跡の判別がつかなくなってきていた。

「しかたないか。今日はここに泊まりましょう。ヒビワレツメ、野営の準備ね。セキ君は薪にする枝を拾ってきて」

じっくりいきましょう、とカナエは言った。




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