宴にて

一行が森から帰ってくると、すぐに酒場で宴が開かれた。

いくつもの酒樽が運ばれ、大勢の人たちが酒場に集まってきている。

休む間もなく酒や料理が運ばれ、賑やかに盛り上がっていた。

「英雄の帰還に乾杯!」

「冒険者たちに!」

「勇者セトに!」

「厄介な女冒険者に!」

「俺の店の従業員に!」

「陽気な骸骨に!」

「偉大な兄貴に、かんぱーい」

何度も歓声があがり、何度も乾杯の音頭がとられた。

老魔術師の隣に座っていたセキは、子供たちに囲まれて話をせがまれている。

ヒビワレツメは飲めもしないのに杯を傾けていた。骨の体を素通りした酒で、床を濡らしているだけだ。

「よぉよぉ、冒険者さんよぉ。どうだい? これで晴れて町から出られるようになったんだしよぉ、思い出に、な? 今夜あたりどうだい、え?」

言い寄る男を鉄拳であしらいながら、カナエがちびちびと蒸留酒をなめていると、そこに近づいてくる者があった。

「話がある」

セハだった。彼は、素面だった。それを少し意外に思いながら、カナエは頷いた。

そっと酒宴の場を抜け出す二人。

店の裏へ来たが、セハは黙ったままだった。何かを決めかねているような様子だったので、カナエはそれを待つことにした。

店からこぼれてくる喧噪が遠い世界のように聞こえてくる。

「息子を連れだしてくれないか?」

ややあってから、セハが言った。

「……え?」

意味を図りかねたカナエが、セハを見つめる。

「俺はろくでもない親だ。あいつひとりにすべてを背負わせてきた」

セハは、まるで懺悔するかのような口調で話していた。

「セキが外の世界に憧れているくらいは、俺にだってわかる。だが、あいつが町に居続けることに安心して、何もしてこなかった。何もしなかったんだ」

そう言って、セハは酒場の方へ目をやった。

「あんたがこの町に来てから、気づいたよ。今日ここで、あの子を見てわかったよ。あんなに楽しそうにしてる息子を見るのは何年ぶりだろう、ってな」

カナエはただ黙って聞いていた。挟むべき言葉などなかった。

「どうせ、過去の栄光だ。俺のくだらんプライドを捨てさえすれば、ガキ二人くらい面倒見ることくらいできる。これからはどんな仕事だってやってやる。だから何も気にしないで、この町を出ればいい。あんたなら、息子を任せられそうだからな。ずっと面倒を見てくれってわけじゃない。適当にほっぽり出してもかまわん。あんたが町を出るとき、一緒にセキを連れていってくれないか?」

カナエは返答に窮した。

しばらくの間、考え込んだが、結局はセハの願いを聞くことに決めた。

「わかりました。でも、最後はセキ君が決めることですよ」

その言葉を聞いたとたん、それまで張りつめていたセハの表情が和らいだ。よほどの決意だったのだろう。

「頼む」

と、それだけ言うと、セハは夜の通りへと消えていった。

カナエもそれを見送ってから、再び店の中へと戻っていった。




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